銀行の資金運用というと、企業や個人への「貸出」がまず思い浮かびます。しかし、銀行は集めた預金をすべて貸出に回しているわけではありません。国債や地方債、社債、金融債、株式、さらには外国証券などを保有し、そこから利息や配当、売買益などを得ることも重要な仕事になっています。

この活動が有価証券投資です。

有価証券投資を理解すると、銀行という存在が「預金を集めて、それを企業に貸すだけの金融仲介機関」ではなく、貸出市場と証券市場の両方に資金を配分する巨大な投資主体であることが見えてきます。しかも、有価証券は貸出とは違って市場で売買できるため、銀行にとっては資金を運用しながら、必要に応じて現金化できるという重要な意味を持っています。


銀行がなぜ「証券」を持つのか

銀行の基本的な仕事を単純化すると、

預金を集める → 貸出を行う → 利息を受け取る

という仕組みになります。

ところが、銀行の預金はいつでも引き出される可能性があります。特に普通預金や当座預金は、預金者から要求されれば払い戻さなければなりません。

一方、企業への貸出は、数か月から数年、住宅ローンなら何十年という期間にわたって資金が固定されることがあります。

ここに銀行経営の難しさがあります。

「すぐに返さなければならない預金」と「すぐには返ってこない貸出」

を同時に抱えているからです。

そこで重要になるのが有価証券です。

国債などの市場性のある債券であれば、市場で売却して現金化することができます。本文でも、有価証券のうち債券は、流通市場が発達したことで、価格変動はあるものの必要なときには現金化でき、貸出よりも流動性に優れていると説明されています。

つまり銀行にとって有価証券は、

収益を生み出す資産であると同時に、必要なときに現金化できる資産

でもあります。

これは非常に重要なポイントです。


有価証券には大きく「債券」と「株式」がある

有価証券を理解する最初のポイントは、債券と株式は性格がまったく違うということです。

債券は簡単にいえば「お金を借りました」という借用証書です。

たとえば、企業が100億円を必要としているとします。銀行から100億円を借りる方法もありますが、投資家から100億円を集めるために債券を発行することもできます。

投資家は企業に資金を提供し、その代わりに債券を受け取ります。企業は決められた利息を支払い、満期になれば元本を返します。

一方、株式は「会社にお金を貸した」という証書ではありません。会社の財産に対する持分を示すものです。

したがって、債券を持っている人は基本的に「債権者」であり、株式を持っている人は「株主」です。

この違いは、受け取る収益にも表れます。

債券の場合は基本的に利子です。

株式の場合は配当ですが、配当は会社の収益状況などによって変化し、利益がなければ配当がない場合もあります。さらに株価そのものも大きく変動します。

したがって、

債券株式
基本的な性格お金を貸した証書会社の持分
保有者債権者株主
主な収益利子配当・値上がり益
元本・価格比較的予測しやすい株価によって大きく変動
企業との関係返済を受ける企業の所有者の一部になる

という違いがあります。

銀行が有価証券投資を行う場合、この違いは非常に重要です。債券と株式では、収益性だけでなく、価格変動リスクや流動性、信用リスクなども異なるからです。


国債――政府にお金を貸すということ

銀行が保有する代表的な債券が国債です。

国債とは、政府が資金を調達するために発行する債券です。政府の歳入が歳出に不足する場合、その不足を補うためにも発行されます。本文では、国債を償還期限によって長期国債、中期国債、短期国債、政府短期証券などに分類しています。

国債を購入するということは、経済的には、

「政府に資金を提供し、その代わりに将来の元本返済と利息を受け取る」

ということです。

銀行にとって国債が重要なのは、信用力や市場性に加えて、流動性を持っているからです。

たとえば企業への貸出の場合、「この貸出を今日売りたい」と思っても簡単には売れません。しかし国債には市場があり、売却することによって資金を回収できます。

そのため国債は、銀行の資産運用において、収益性と流動性を両立させる手段として重要な位置を占めます。


地方債――地方自治体も「債券」を発行する

国だけではなく、地方公共団体も資金を調達するために債券を発行します。それが地方債です。

地方自治体が道路、上下水道、学校、公共施設などの整備を行うには、大きな資金が必要になります。税収だけで必要な資金をすべてまかなうことは難しいため、借入や地方債の発行によって資金を調達します。

地方債には、市場で広く募集されるものだけでなく、特定の金融機関などが引き受けるものもあります。本文では、地元の銀行などによって引き受けられる地方債を縁故地方債などと呼んでいます。

ここから、銀行と地域経済の関係も見えてきます。

地方銀行が地方公共団体の債券を保有するということは、単に「銀行が投資している」というだけではありません。地域の公共事業や行政サービスに必要な資金を、金融市場を通じて供給していることにもなります。


政府関係機関債――政府だけが借り手ではない

国や地方自治体だけでなく、政府関係機関も債券を発行します。

政府関係機関が事業資金の一部を調達するために発行する債券で、政府が元利金を保証するものは政府保証債と呼ばれます。

さらに本文では、平成13年4月以降、財政投融資制度の改革によって、政府保証のない財投機関債も発行されるようになったことが説明されています。

ここには、「政府のお金」と「民間金融市場」の境界がどのように形成されているのかという問題があります。

政府が直接税金を集めて使うだけではなく、政府関係機関が債券を発行し、銀行や投資家がそれを購入することで資金を調達する。

つまり金融市場は、民間企業だけでなく、政府部門の資金調達装置としても機能しているのです。


社債――企業も「借用証書」を市場で売る

企業が長期資金を調達する方法には、銀行から借りる方法と、債券を発行する方法があります。

企業が発行する債券が社債です。

この違いは、金融の仕組みを理解するうえで非常に重要です。

銀行から100億円借りる場合、企業と銀行の間に直接的な貸借関係ができます。

ところが企業が100億円の社債を発行すると、多数の投資家がその社債を購入することで資金が集まります。

つまり、

銀行から借りる=間接金融

社債を発行して投資家から直接資金を集める=直接金融

という違いが生まれます。

銀行が社債を購入する場合は、銀行自身が投資家として直接金融市場に参加していることになります。

本文では、社債の中心として事業債を挙げ、電力会社が発行する電力債などを例として示しています。また、普通社債、転換社債、ワラント債などの種類にも触れています。


金融債――銀行自身も「借金の証書」を発行する

少し面白いのが金融債です。

債券というと「政府や企業が発行するもの」というイメージがありますが、金融機関自身も債券を発行します。

これが金融債です。

銀行が預金だけでなく、債券を発行して資金を調達することで、より多様な資金調達が可能になります。

そして、その金融債を他の金融機関が購入することもあります。

一見すると、

「銀行Aが銀行Bからお金を借り、その銀行Bが銀行Aの債券を買うのなら、何をしているのだろう?」

と不思議に感じます。

しかし金融市場では、単純な「お金の貸し借り」ではなく、期間、流動性、信用力、担保性、運用先などの違いを組み合わせて資金を配置することに意味があります。

金融とは、「誰から誰へお金が移ったか」だけでなく、「どのような金融商品という形で権利・債務が構成されたか」を見る必要がある世界なのです。


株式――銀行にとっては魅力的だが、危険な資産でもある

株式は債券とは大きく異なります。

債券なら、企業が約束した利息と元本返済があります。しかし株式には、債券のような固定的な返済約束はありません。

企業の利益が増えれば配当が増える可能性があります。企業価値が高まれば株価が上昇して、売却益を得ることもできます。

反対に、企業の業績が悪化すれば配当が減ったり、なくなったりします。株価が下落すれば、保有している銀行には評価損や売却損が発生します。

本文では、株式について、利益配当請求権、株主総会での議決権、残余財産分配請求権など、株主が持つ権利を説明しています。また、株式価格の変動が大きく、取得価格より価格が下落すれば売却損や評価損が発生するため、原則として銀行にとって投資物件として適切ではないとされてきたことにも触れています。

ところが日本の銀行は、歴史的にかなり多額の株式を保有してきました。

なぜでしょうか。

一つには、企業との取引関係があります。

銀行と企業が長期的な取引関係を築き、企業同士、銀行同士が株式を持ち合うという日本独特の企業金融構造が存在していました。

もう一つには、株価が長期的に上昇してきた時代には、株式を持っていること自体が大きな含み益を生み出したという事情があります。

ところがバブル崩壊によって株価が大幅に下落すると、この構造が一気に逆回転します。

「銀行が保有している株式が、銀行自身の財務を圧迫する」

という問題が発生したのです。

ここには、日本のバブル経済と銀行問題を理解する重要なポイントがあります。


株式の持ち合いは「安定」を生んだが、別のリスクも生んだ

企業同士が株式を持ち合うと、短期的な株価変動に左右されにくくなります。

「株主が突然株を売って経営に圧力をかける」という事態を防ぎやすくなるからです。

銀行にとっても、融資先企業の株式を保有することには、取引関係を安定させる意味がありました。

しかし、株式価格が下落すると、その株式を大量に保有している銀行自身が損失を抱えることになります。

つまり、

企業との関係を安定させるための仕組みが、株価下落局面では金融機関の財務リスクに変わる

ということです。

これは金融の面白いところでもあります。

ある制度が「安定化装置」として機能しているときには、その副作用が見えません。しかし環境が変化すると、同じ仕組みが「リスク増幅装置」になることがあります。


銀行の株式保有には制限もある

銀行が自由に企業の株式を大量保有できるわけでもありません。

本文では、独占禁止法による保有制限に加えて、銀行株保有制限法による規制について説明しています。財務の健全性を維持する観点から、銀行による株式保有には一定の制約が設けられていました。

ここには金融規制の基本的な考え方があります。

銀行が株式を大量に持てば、株価上昇時には大きな利益を得ることができます。しかし株価が急落すれば、銀行の財務基盤まで傷つきます。

銀行には一般企業以上に「安全性」が求められます。なぜなら銀行の経営が悪化すると、単に一企業が倒産するだけではなく、預金者や取引企業、さらには決済システムにも影響が及ぶ可能性があるからです。

そのため銀行の資産運用には、「どれだけ儲かるか」だけではなく、「どれだけ安全に運用できるか」という視点が必要になります。


外国証券――銀行の投資先は国内だけではない

金融機関の有価証券投資は国内の債券や株式だけではありません。

外国の政府や企業などが発行する外国証券も投資対象になります。本文では、外国証券の多くは外貨建てであること、東京市場で発行される外国企業などの円建て債券、ユーロ市場で発行される円建て債券であるユーロ円債などについて説明しています。また、外国政府や企業が発行する債券や株式も外国証券に含まれます。

ここから、銀行の資金運用は国内経済だけでは完結しないことが分かります。

たとえばドル建ての外国債券を保有している場合、債券そのものの価格だけでなく、円とドルの為替相場も収益を左右します。

100万ドルの外国債券を持っていても、ドルが円に対して下落すれば、円換算した資産価値は減少します。

したがって外国証券への投資には、

信用リスク+金利リスク+価格変動リスク+為替リスク

といった複数のリスクが絡んできます。

これは前節の「貸出」とも共通する問題です。金融機関が資金を運用するということは、必ず何らかの形で未来の不確実性を引き受けることを意味します。


「有価証券」は銀行にとって第二の貸出なのか

ここまでを整理すると、銀行の資金運用には二つの大きな方向があります。

一つは企業や個人などに直接資金を貸すことです。

もう一つは、国債、地方債、社債などを購入して、証券市場を通じて資金を供給することです。

たとえば企業が銀行から100億円を借りれば、銀行は企業に直接資金を供給しています。

一方、その企業が社債を発行し、銀行がその社債を100億円購入すれば、銀行は証券市場を通じて企業に資金を供給しています。

この二つは似ていますが、性格は異なります。

資金運用資金の流れ特徴
貸出銀行 → 企業・個人相対的な貸借関係、満期まで保有することが多い
債券投資銀行 → 債券市場 → 発行者市場で売買できるため流動性が高い
株式投資銀行 → 株式市場 → 企業配当・値上がり益が期待できる一方、価格変動が大きい
外国証券投資銀行 → 海外の発行者・市場為替リスクなども加わる

したがって、有価証券投資は単なる「余ったお金の運用」ではありません。

銀行が金融市場を通じて資金を配分する活動でもあるのです。


「流動性」と「収益性」のせめぎ合い

有価証券投資を考えるうえで、もう一つ重要なのが流動性と収益性のトレードオフです。

銀行が資金を現金として保有していれば、すぐ使えます。しかし基本的には収益を生みません。

企業に長期で貸し出せば、比較的高い収益を得られる可能性があります。しかし、急に現金化することは難しい。

国債などの市場性のある証券なら、一定の収益を得ながら、市場で売却して現金化することもできます。ただし、市場金利や市場価格が変化すれば、売却価格も変わります。

つまり銀行の資産運用は、

安全性

収益性

流動性

の三つをどう組み合わせるかという問題になります。

これは現代の銀行経営でも非常に重要な考え方です。


有価証券投資が「含み益」問題につながった理由

日本の銀行について有価証券投資を考えるとき、特に重要なのが含み益です。

株式などの資産を取得した価格よりも市場価格が高くなっていれば、売却していなくても「含み益」が存在します。

逆に市場価格が取得価格を下回れば、「含み損」が発生します。

バブル経済期には、銀行が保有する株式の価格が大きく上昇し、巨大な含み益が生まれました。

ところがバブル崩壊後に株価が大幅に下落すると、状況が一変しました。

銀行が保有する株式の価値が低下し、含み益が大幅に縮小しました。本文でも、株価の大幅低下によって銀行の含み益が大幅に縮小したこと、平成13年から原則として時価評価へ移行したことが説明されています。

この問題は、単なる株式投資の失敗というだけではありません。

銀行が企業との長期的な関係を築くために大量の株式を保有していたことと、バブル崩壊後の金融システム不安が結びついた

という点に重要性があります。


有価証券投資から「証券化」へ

さらに大きな視点で見ると、有価証券投資はその後の金融市場の変化にもつながります。

銀行が企業に貸し出すという従来型の金融では、銀行が貸出債権を保有し続けることが基本でした。

ところが金融市場が発達すると、貸出債権そのものを証券に変換して投資家に販売する証券化という仕組みも発達していきます。

住宅ローン、自動車ローン、企業の売掛債権など、従来は簡単には売買できなかった資産をまとめ、そのキャッシュフローを裏付けとする証券を発行するわけです。

本文の後の金融市場の説明でも、貸付債権などを流動化する資産担保証券、いわゆるABSなどが登場します。

ここまで来ると、「銀行が企業に貸す」という単純な金融構造が、

預金 → 銀行 → 貸出 → 債権 → 証券化 → 投資家

という複雑な金融ネットワークへ変化していくことが分かります。

つまり有価証券投資は、銀行の資産運用だけを理解するためのテーマではありません。直接金融と間接金融がどのように結びついているのかを理解する入口でもあります。


金融の世界では「貸す」と「投資する」の境界が意外と近い

企業から見れば、銀行から100億円借りても、社債を発行して100億円調達しても、どちらも「資金を調達した」という意味では同じです。

違うのは、その資金を誰が供給したのか、そしてその権利がどのような金融商品になっているかです。

銀行融資なら、銀行と企業の間に貸借関係が成立します。

社債なら、企業と債券保有者の間に債権・債務関係が成立します。

株式なら、企業と株主の間に所有関係が成立します。

この違いによって、利息、配当、返済義務、議決権、価格変動、流動性、リスクの分担方法などが変わります。

だからこそ、金融市場には非常に多くの金融商品が存在します。

「お金を誰に渡すのか」だけでなく、「どのような権利としてお金を渡すのか」

が金融の本質的な問題になるからです。


銀行は「貸出」と「証券投資」を使い分ける

銀行のバランスシートを頭の中に描いてみると、有価証券投資の意味がさらに明確になります。

銀行の負債側には預金があります。

その預金を使って、銀行は資産を持ちます。

その代表が貸出です。

しかし、それだけではありません。

国債を持つこともできます。

地方債を持つこともできます。

社債を持つこともできます。

株式を持つこともできます。

外国証券を持つこともできます。

つまり銀行は、預金者から集めた資金を、複数の金融資産へ分散させて運用しているわけです。

その意味で銀行とは、

「預金を集め、それを貸出と証券投資などに振り分けながら、収益性・安全性・流動性を調整する巨大な資産運用主体」

でもあります。


預金・貸出・為替・有価証券投資が一本につながる

ここまでの第2章の流れを、金融機関の活動として一つにつなげると非常に分かりやすくなります。

預金によって銀行には資金が集まります。

貸出によって、その資金が企業や個人へ供給されます。

為替によって、預金や資金が経済主体の間を移動し、取引が決済されます。

そして有価証券投資によって、銀行は証券市場にも資金を供給します。

つまり銀行は、

「資金を集める」

だけでも、

「資金を貸す」

だけでもありません。

「資金を市場へ配分し、その後の資金移動と決済まで支える」

という巨大な金融システムの一部なのです。

特に有価証券投資の面白いところは、銀行が「金融市場の利用者」であると同時に、「金融市場を支える資金供給者」でもあることです。銀行が国債や社債を購入すれば、政府や企業に資金が供給されます。一方、銀行がそれらの証券を市場で売却すれば、銀行は資金を回収できます。

ここには、金融資産を「持つ」ことと「流通させる」ことが一体になった現代金融の特徴があります。


有価証券投資を一言で理解するなら

有価証券投資とは、単に「銀行が株や国債を買って儲けること」ではありません。

その本質は、

銀行が預金などによって調達した資金を、貸出だけでなく証券市場にも配分し、利息・配当・売買益などの収益を得ながら、同時に流動性やリスクを管理する活動

にあります。

そして、その対象となる有価証券には、それぞれ異なる意味があります。

国債は政府の資金調達を支えます。

地方債は地方公共団体の資金調達を支えます。

政府関係機関債は政府関係機関の事業資金を支えます。

社債は企業の長期資金調達を支えます。

金融債は金融機関自身の資金調達を支えます。

株式は企業の所有権を表し、企業の成長と投資家の利益を結びつけます。

外国証券は国境を越えて資金を配分する役割を果たします。

このように考えると、有価証券投資は「銀行の余ったお金の運用」ではなく、国家、自治体、企業、金融機関、海外経済主体へ資金を配分する重要な金融機能であることが分かります。

そして、この有価証券投資の先には、信託業務というさらに興味深い金融機能が続きます。そこでは、銀行自身が資金を運用するだけではなく、「他人の財産を預かり、その人に代わって運用する」という、金融における「所有」と「運用」の分離が登場します。これによって、銀行・証券・投資家の関係はさらに複雑で高度なものになっていきます。