企業が事業を行うために資金を必要とするのと同じように、家計も住宅の購入、教育、自動車、家電、旅行など、さまざまな場面で資金を必要とします。
ただし、企業金融と消費者金融には大きな違いがあります。企業の場合、借りた資金を設備投資などに使い、そこから将来の売上や利益を生み出して返済することが期待されます。一方、個人の借入は住宅や耐久消費財の購入など、将来の所得から返済していくものが中心です。
つまり消費者金融とは、単に「個人にお金を貸す業務」ではありません。現在の所得だけでは実現できない消費や住宅取得などを、将来の所得を担保にして時間的に前倒しする仕組みと考えると、その本質が見えてきます。
その一方で、将来の所得を先に使うということは、将来の家計に返済負担を残すことでもあります。したがって消費者金融には、「生活を豊かにする信用」と「過剰債務を生み出す危険」という二つの側面があります。
- 家計も「資金を借りる主体」になった
- 消費者向け資金の中心は住宅ローン
- 住宅金融には「政策」と「民間金融」の二つの顔がある
- 住宅金融専門会社とバブル経済
- 消費者信用は「後払い」の仕組みから始まった
- 月賦販売からクレジットカードへ
- クレジットカードは「小さな信用」を大量に束ねる
- 「販売信用」と「消費者ローン」は違う
- サラリーマン金融――「無担保・無保証」という新しい金融
- 金融には「信用」と「リスク」が必ずセットで存在する
- カードローンとフリーローン――「信用枠」という考え方
- 消費者金融の発達は「豊かさ」の裏側でもある
- しかし「未来の所得を使う」ということには代償がある
- 消費者金融は「生活の金融化」を映している
- 企業金融と消費者金融をつなぐ一本の線
- 消費者金融から見える金融の本質
家計も「資金を借りる主体」になった
戦後の日本では、家計は長い間、金融市場における代表的な資金供給者でした。
家庭が働いて得た所得の一部を銀行預金や郵便貯金などとして貯蓄し、その資金が金融機関を通じて企業や政府などに供給されるという構図です。
ところが経済が豊かになるにつれて、家計は単なる「貯蓄する主体」ではなくなっていきます。
住宅を購入するために住宅ローンを利用し、自動車を購入するためにローンを利用し、家電製品を分割払いで購入し、クレジットカードを利用する。つまり家計も金融市場から資金を調達する主体になっていきました。
ここには金融の非常に重要な機能があります。
たとえば、30歳の会社員が3000万円の住宅を購入するとします。30歳時点の貯蓄だけで3000万円を用意することは難しいでしょう。しかし、今後30年、40年にわたって働き、所得を得ることが予想されるなら、その将来所得を背景にして現在住宅を購入することができます。
金融とは、まさにこのような「現在」と「未来」の間の資金移動を可能にする仕組みでもあります。
消費者向け資金の中心は住宅ローン
家計向けの金融を考えるとき、特に大きな存在となるのが住宅ローンです。
住宅は一般の商品と違って非常に高額です。しかも、購入時に必要となる資金は大きい一方、住宅そのものが生み出す現金収入は通常ありません。そのため、住宅購入には長期間の借入が必要になります。
戦後の日本では住宅事情が悪く、住宅需要が強かった一方、住宅購入に必要な資金は非常に大きく、返済期間も長かったため、一般の金融機関から十分な資金を借りることは容易ではありませんでした。
そこで1950年に住宅金融公庫が設立され、住宅取得のために長期・低利の資金を供給する仕組みが整えられました。
その後、経済成長とともに民間金融機関の住宅ローンも増加していきます。資料では、昭和40年代に入って金融機関の資金繰りにある程度余裕が生じたことを背景に、民間金融機関による住宅ローンが顕著に増加したと説明されています。
住宅ローンには、大きく見ると住宅販売業者などと金融機関が連携して融資を行う提携ローンと、住宅購入者自身が金融機関から借りる非提携型のローンがあります。
また、住宅ローンには固定金利型と変動金利型があります。
ここには、金融における「金利リスク」の問題が表れています。
固定金利なら、借り手は将来の金利上昇をそれほど心配しなくて済みます。一方、金利が下がっても当初の金利を支払い続けることになります。
変動金利なら、市場金利が下がったときには借り手にメリットがありますが、逆に金利が上昇すれば返済負担が増える可能性があります。
つまり住宅ローンとは、単に「家を買うためのお金」ではありません。住宅という非常に長寿命の資産と、数十年間にわたる家計の所得を結びつける巨大な金融契約なのです。
住宅金融には「政策」と「民間金融」の二つの顔がある
住宅金融が興味深いのは、単純な市場取引だけでは説明できないことです。
住宅は生活に不可欠な財であり、住宅事情は国民生活に直結します。そのため戦後の日本では、政府が住宅取得を金融面から支援する政策を行ってきました。
しかし経済が発展し、民間金融機関が住宅ローンを十分に提供できるようになると、政府系の住宅金融がどこまで必要なのかという問題が出てきます。
民間金融機関ができることを政府が行い続ければ、「民業圧迫」になる可能性があるからです。
この問題は、住宅金融だけに限りません。
金融市場には、民間金融で対応できる部分と、政策的な金融支援が必要とされる部分の境界線がある。
その境界線は、経済環境によって変わります。
戦後の住宅不足の時代には公的金融の役割が大きくても、住宅市場や民間金融が成熟すれば、役割を見直す必要が出てくるわけです。資料でも、住宅金融公庫について、民業圧迫などの観点から改廃問題が議論されるようになったことが記されています。
住宅金融専門会社とバブル経済
住宅金融をめぐって日本の金融史を考えるとき、避けて通れないのが住宅金融専門会社、いわゆる住専です。
住宅金融専門会社は、もともと個人向けの住宅金融を担うために設立された専門的な金融会社でした。親金融機関などから資金を調達し、住宅関連の融資を行っていました。
ところがバブル経済の時代になると、土地価格が急上昇します。
土地は値上がりするという期待が広がり、土地を担保にして資金を借り、その資金でさらに土地を購入するという取引が拡大しました。
住専も次第に不動産会社などへの土地担保融資に傾斜するようになり、バブル崩壊後に大量の不良資産を抱えることになります。
資料では、住専の不良資産が8兆4000億円、そのうち回収不能とされたものが6兆4100億円に達したとされています。1995~1996年にかけて政府と関係金融機関の間で損失処理や不良資産処理が協議されました。
これは消費者金融というテーマから少し離れているように見えますが、実は非常に重要な教訓があります。
「住宅」という生活に密着した分野であっても、金融機関が不動産価格上昇への期待に過度に依存すれば、巨大な信用リスクが生まれる。
住宅金融は安全な金融に見えます。しかし、その背後には土地価格、金利、家計所得、金融機関の融資姿勢など、さまざまなリスクが存在しています。
消費者信用は「後払い」の仕組みから始まった
住宅ローン以外の消費者金融として重要なのが、消費者信用です。
その出発点の一つとなったのが、耐久消費財の割賦販売でした。
洗濯機、冷蔵庫、テレビ、自動車など、戦後の日本では新しい耐久消費財が大量生産されるようになりました。
しかし、これらの商品を一括払いで購入するには、家計にとって負担が大きい。
そこで、
「今、商品を手に入れる」
「代金は何回かに分けて支払う」
という仕組みが発達します。
これが割賦販売です。
メーカーや販売店にとっては、分割払いを認めることで商品の販売を促進できます。消費者にとっては、現在の所得だけでは購入できない商品を手に入れ、将来の所得から代金を支払うことができます。
ここには、金融と消費の結びつきがあります。
金融は企業の設備投資だけを支えるものではありません。家計が将来の所得を現在の消費に変換する仕組みでもあるのです。
月賦販売からクレジットカードへ
消費者信用は、耐久消費財メーカーなどによる割賦販売だけではなく、月賦百貨店、信用販売会社、クレジット会社などへ広がっていきました。
月賦百貨店は、特定の商品だけでなく、さまざまな商品を分割払いで購入できる仕組みを提供しました。
さらに信用販売会社やクレジット会社が発達すると、消費者が購入できる商品の範囲は一層広がります。
ここで重要なのが、販売信用という考え方です。
販売信用では、消費者が商品を購入するとき、その販売に関連して信用が供与されます。現金を直接借りるわけではありません。
たとえば10万円の商品を購入し、その代金を10回に分けて支払う場合、消費者が10万円の現金を手にしているわけではありません。しかし経済的には、「商品を先に受け取り、代金の支払いを将来に延ばしている」のであり、そこには信用取引が存在しています。
クレジットカードは「小さな信用」を大量に束ねる
クレジットカードが普及すると、消費者信用はさらに大きく変わります。
現金を持っていなくてもカードを提示することで商品やサービスを購入でき、後日、銀行口座から代金が引き落とされます。
これは現在では当たり前ですが、金融の仕組みとして見ると非常に面白いものです。
カード会社は、多数の消費者について、
「この人はどれくらい信用できるのか」
「どれくらいの利用限度額なら安全なのか」
「支払いが滞る可能性はどの程度なのか」
を判断しなければなりません。
つまりクレジットカードの普及は、個人の信用を情報によって評価する仕組みの発達と表裏一体です。
資料では、銀行協会内に個人信用情報センターが設けられ、個人の信用調査に必要な情報の整備が進められたことも説明されています。個々の金融機関だけでは個人信用の調査能力に限界があるため、信用情報を共有・整備する仕組みが必要になったのです。
ここから現代のフィンテックにもつながる重要なテーマが見えてきます。
個人にお金を貸せるかどうかは、「お金があるか」だけではなく、「その人が将来返済できると判断できるか」によって決まる。
そして、その判断を可能にするのが信用情報です。
「販売信用」と「消費者ローン」は違う
消費者向けの信用には、大きく分けて二つのタイプがあります。
一つは、商品購入などと結びついた販売信用です。
もう一つは、消費者に現金そのものを貸し出す消費者ローンです。
この違いは非常に重要です。
たとえば自動車ローンなら、「自動車を購入する」という目的があります。一方、フリーローンやカードローンでは、借りた資金の使途を限定しないタイプがあります。
資料では、消費者ローンが販売信用より遅れて発達したこと、その背景として家計所得の上昇だけでなく、金融機関側に資金余裕が生じたことも指摘されています。さらに金融緩和期以降、従来の耐久消費財購入などに限定されたローンから、資金使途を特定しない融資へと広がっていったことが説明されています。
これは消費者金融の性格が変わったことを意味します。
最初は、
「この商品を買いたいから、その購入代金を分割で支払う」
という商品購入中心の信用でした。
それが、
「今、お金が必要だから借りる」
という、より一般的な信用供与へ広がっていったのです。
サラリーマン金融――「無担保・無保証」という新しい金融
消費者ローンの発展とともに急成長したのが、資料で「サラリーマン金融業者」と呼ばれている貸金業者です。
その特徴は、小口、無担保、無保証で、比較的迅速に資金を提供することでした。
銀行融資では、企業でも個人でも、返済能力や担保、保証などについて一定の審査が必要になります。
ところが、少額の個人融資について、毎回詳細な審査を行っていたのではコストが高くなります。
そこで貸金業者は、個人信用情報などを利用しながら、比較的迅速に小口融資を行うビジネスモデルを発展させました。
その代わり、無担保・無保証で貸す以上、貸倒れリスクは高くなります。
そのリスクをカバーするため、銀行より高い金利を設定するという構造になります。
つまり、
担保を取らない
→ 貸倒れリスクが高い
→ 高い金利が必要になる
という関係です。
しかし、高金利を設定することによって、借り手側の返済負担も大きくなります。
さらに悪質な業者による過酷な取立てなどが社会問題となったことから、貸金業に対する規制が整備されていきました。
資料では、1983年に貸金業規制法が制定されたことや、出資法による上限金利についても説明されています。なお、ここで示されている金利や制度は2001年前後の制度状況であり、現在の貸金業規制と同一ではありません。
金融には「信用」と「リスク」が必ずセットで存在する
消費者金融を理解するうえで最も重要なのは、信用とリスクの関係です。
銀行が住宅ローンを貸す場合、借り手の所得、勤務状況、住宅の価値、返済期間などを確認します。
クレジットカード会社も、利用者の信用情報などをもとに利用限度額を設定します。
消費者金融会社は、無担保で貸す代わりに、金利によって貸倒れリスクをカバーしようとします。
つまり、金融機関は常に、
「この人にいくらまで貸してよいのか」
という問題に直面しています。
企業金融では「企業の将来キャッシュ・フロー」が重要でした。
消費者金融では、それに対応するものとして、
「個人の将来所得と返済能力」
が重要になります。
ここに企業金融と消費者金融の共通性があります。
どちらも結局のところ、現在の資金を提供し、その代わりに将来の返済を期待する仕組みなのです。
カードローンとフリーローン――「信用枠」という考え方
資料では、資金使途を限定しないローンとして、カードローンとフリーローンが紹介されています。
カードローンでは、一定の借入限度額が設定され、その範囲内であれば繰り返し借りることができます。ATMなどを利用して資金を引き出す方式です。
一方、フリーローンは証書貸付の形式をとり、一定額を借りて、その後返済していく仕組みです。
両者の違いを簡単に言えば、
フリーローン=一度まとめて借りる
カードローン=あらかじめ設定された信用枠を必要に応じて利用する
という違いです。
ここで「信用枠」という考え方が重要になります。
金融機関は、「この人なら100万円までなら貸せる」と判断することがあります。
すると、金融機関が販売しているのは単なる「100万円」ではありません。
「必要なときに100万円まで借りられるという信用」
そのものを販売しているとも考えられます。
これは現代のクレジットカードやオンライン融資を理解するうえでも非常に重要な視点です。
消費者金融の発達は「豊かさ」の裏側でもある
消費者金融が発達するためには、そもそも消費者に一定の所得が必要です。
所得が低く、将来の返済能力がほとんどなければ、金融機関は個人に大規模な信用を供与できません。
したがって消費者金融の発達は、
所得水準の上昇
耐久消費財の普及
住宅需要の増加
金融機関の資金余裕
信用情報の整備
カード決済の普及
などと結びついています。
つまり消費者金融は、金融業界だけの変化ではありません。
日本人の生活様式そのものが変化した結果として発達した金融システムなのです。
冷蔵庫やテレビ、自動車、住宅などを「今買って、将来の所得から支払う」ことができるようになったことで、消費者は所得を得る速度よりも先に生活水準を高めることが可能になりました。
しかし「未来の所得を使う」ということには代償がある
ここで、消費者金融のもう一つの側面が見えてきます。
借入とは、現在の購買力を増やす代わりに、将来の購買力を減らすことです。
100万円を借りれば、今は100万円多く使えます。しかし、その後には元本の返済と利息の支払いが待っています。
したがって消費者金融は、
現在の生活を豊かにする仕組み
であると同時に、
将来の所得を拘束する仕組み
でもあります。
住宅ローンなら、将来数十年間にわたって所得の一部を返済に充てることになります。
カードローンなら、短期間で資金を手に入れられる一方、金利負担が重くなる可能性があります。
このため、消費者金融の発達には、金融機関側の審査能力だけでなく、消費者側の金融リテラシーも重要になります。
消費者金融は「生活の金融化」を映している
消費者金融の歴史を振り返ると、生活そのものが金融システムと深く結びついてきたことが分かります。
住宅は住宅ローンと結びつき、自動車は自動車ローンと結びつき、家電は割賦販売と結びつき、日常の買い物はクレジットカードと結びついていきました。
現金をその場で支払うという単純な取引から、
「商品を先に受け取る」
「代金は後から支払う」
という信用取引が生活の中に広がっていったのです。
そして、その信用を支えるために、金融機関やクレジット会社は個人の信用情報を蓄積し、審査し、リスクを価格に反映させるようになりました。
これは金融の世界で起きている「情報化」の一つの姿でもあります。
企業金融と消費者金融をつなぐ一本の線
企業金融と消費者金融は、一見するとまったく違う世界に見えます。
企業は工場を建設するために借り、個人は住宅を買うために借りる。
しかし金融という観点から見ると、両者には共通する構造があります。
| 企業金融 | 消費者金融 |
|---|---|
| 設備投資のために借りる | 住宅・自動車などのために借りる |
| 将来の売上・利益から返済 | 将来の所得から返済 |
| 企業の信用力を審査 | 個人の信用力を審査 |
| 担保・保証・財務内容 | 担保・所得・信用情報 |
| 銀行・社債・株式など | 銀行・信販・カード・貸金業者など |
| 金利は信用リスクを反映 | 金利は信用リスクを反映 |
共通しているのは、現在の資金と未来の収入を結びつけることです。
金融とは、現在余っているお金を単に移動させるだけの仕組みではありません。
むしろ重要なのは、
「未来に得られるはずの所得や利益を、現在の経済活動に先回りして投入する」
という機能です。
企業は将来の利益を期待して設備投資を行い、家計は将来の所得を期待して住宅や商品を購入します。
この意味で企業金融と消費者金融は、どちらも時間をまたいだ信用の取引なのです。
消費者金融から見える金融の本質
消費者金融を学ぶと、「金融とは何なのか」という問いに対する答えが少し変わってきます。
金融は単に「お金を貸すこと」ではありません。
現在の購買力と未来の所得を交換すること。
将来の返済能力を現在の信用に変換すること。
その信用にどれだけのリスクがあるかを評価し、金利や融資条件に反映すること。
これが消費者金融の核心です。
そして、住宅ローン、クレジットカード、割賦販売、カードローンなどが発達した社会では、私たちの生活そのものが金融システムの中に組み込まれています。
だからこそ、消費者金融には便利さだけでなく、慎重さも求められます。信用は生活を豊かにする力を持つ一方、将来所得を過度に先取りすれば、逆に将来の生活を圧迫するからです。
「今を豊かにするために、未来をどこまで使ってよいのか」
この問いこそ、消費者金融を考えるときの最も本質的な問題だといえるでしょう。
