金融市場を理解するとき、どうしても避けて通れないのが「金利」である。
銀行に預金すると利息がつく。住宅ローンを借りれば金利を支払う。企業が社債を発行すれば、投資家は利息を受け取る。国債の価格が変われば、その利回りも変化する。さらに、金利が変わると株価や地価まで動く。
一見すると、これらは別々の出来事に見える。しかし、実際にはすべてつながっている。
金利とは単純に「お金を借りたときに払う手数料」ではない。より本質的には、現在のお金を手放して将来のお金を受け取ることに対する価格である。
100万円を今使うことを我慢して1年間貸し、その代わりに102万円を受け取るなら、2万円が「現在のお金を手放したこと」に対する報酬になる。この報酬を元本に対する割合で表したものが金利である。
そして、この「現在のお金と将来のお金の交換価格」が変化すると、株式、債券、土地などの資産価格まで動く。金利を理解することは、金融市場だけでなく、バブルや不動産価格、株価、景気変動を理解するための入口にもなる。
1.金利とは「時間の価格」である
100万円を1年間誰かに貸したとする。
1年後に100万円だけ返ってくるのであれば、貸した側には特別な利益がない。それでも貸す理由があるとすれば、「相手を助けたい」「将来返ってくることが確実だから」という事情などが考えられる。
しかし、一般的な金融取引では、100万円を貸せば1年後にはそれ以上の金額を受け取る。
たとえば1年後に103万円を受け取るのであれば、3万円が利息である。
このとき、
金利=1年間の利息 ÷ 元本 × 100
となる。
100万円を貸して3万円の利息を受け取るなら、年利は3%である。
ここで重要なのは、金利を「お金の使用料」と考えるだけでは不十分だということである。
金利には、
現在使えるお金を手放すことに対する代償
という意味がある。
つまり金利は、経済学的には「時間」に価格をつける仕組みだと考えることができる。
現在の100万円と、1年後の100万円は同じ100万円ではない。現在の100万円なら、今日買い物をしたり、事業に投資したりできる。しかし1年後の100万円は、1年間待たなければ使えない。
だから「今のお金」と「将来のお金」を交換するには、その時間差を埋める何らかの報酬が必要になる。
それが金利である。
2.金利と利回りは少し違う
金融の世界では「金利」と「利回り」という言葉がよく使われる。
預金の場合には「預金金利」という表現が分かりやすい。100万円を預けて3万円の利息を受け取れば、3%の金利である。
ところが、株式や債券になると話が少し複雑になる。
たとえば100円の債券を95円で購入し、満期になると100円が返ってくるとする。この場合、購入者は5円の利益を得る。
この5円は、普通の預金のように「利息」として途中で支払われたわけではない。95円で購入したものが100円になって返ってくるという価格差である。
このような収益も含めて、投資した金額に対してどれだけの収益を得られるのかを割合で表したものが「利回り」である。
そのため、金融市場では、
金利=利息だけを見る
のではなく、
利回り=投資した価格に対して最終的にどれだけの収益が得られるかを見る
という考え方が重要になる。
3.割引債――利息がなくても「金利」は存在する
金利を理解するうえで面白いのが「割引債」である。
割引債は、途中で利息を支払わない。その代わり、額面価格より安い価格で購入でき、満期になると額面価格が返ってくる。
たとえば、
「100円を満期に受け取れる債券を95円で買う」
という商品を考えてみよう。
投資家は95円を支払い、満期には100円を受け取る。
差額の5円が、利息に相当する収益になる。
つまり、金融商品の中には「利息」という形でお金を増やすものだけでなく、購入価格と償還価格の差によって収益を生み出すものもある。
そのため、金利を正確に考えるには、単純な「利息÷元本」だけではなく、「その金融資産に投資した結果、どのくらいの収益率になったのか」という利回りの考え方が必要になる。
4.債券価格が上がると、なぜ利回りは下がるのか
ここは金融ニュースを理解するうえで非常に重要である。
債券価格と利回りには、基本的に逆方向の関係がある。
たとえば、100円の債券が毎年5円の利息を支払うとする。
この債券を100円で買えば、単純化すれば利回りは5%である。
ところが、この債券を110円で買う人にとってはどうだろうか。
毎年受け取れる利息は5円のままである。それなのに購入価格は110円になっている。
したがって、投資した金額に対する収益率は低下する。
逆に、債券価格が90円まで下がれば、同じ5円の利息でも、90円の投資で5円を得ることになるので利回りは高くなる。
つまり、
債券価格↑ → 債券利回り↓
債券価格↓ → 債券利回り↑
という関係になる。
これは単なる計算上の関係ではない。
市場参加者が債券を買えば価格が上昇し、その結果として利回りが低下する。反対に債券を売る人が増えれば価格が低下し、利回りが上昇する。
したがって、債券市場では「価格」と「金利」が表裏一体になっているのである。
5.金利はどうやって決まるのか――貸付資金説
金利の決まり方を考える方法の一つが、貸付資金説である。
これは非常に直感的な考え方である。
お金を貸したい人がいる。
一方で、お金を借りたい人がいる。
貸したい人が多ければ、借り手にとって有利な条件、つまり低い金利でも資金を借りられるようになる。
逆に、借りたい人が多く、貸したい人が少なければ、資金を確保するために高い金利を支払わなければならなくなる。
つまり、
資金供給と資金需要が一致するところで金利が決まる
と考える。
資金を貸す側は、金利が高くなれば「それなら今使うのを我慢して貸そう」と考えやすくなる。
反対に、借りる側は金利が高くなるほど「そんな高い金利を払ってまで借りる必要はない」と考える。
したがって、資金供給曲線は金利が高いほど供給量が増える方向になり、資金需要曲線は金利が高いほど需要量が減る方向になる。
その交点で金利が決まるというのが貸付資金説の基本的な考え方である。
6.なぜ人はお金を貸すのか――「消費を我慢する」ことへの報酬
では、そもそも資金を供給する側は、なぜお金を貸すのだろうか。
家計を考えてみると分かりやすい。
100万円をすべて現在の消費に使うこともできる。しかし、その一部を貯蓄すれば、将来の住宅購入、教育費、老後、あるいは子どもへの相続などに利用できる。
つまり貯蓄とは、現在の消費を減らして将来の消費に回すことでもある。
現在の消費を我慢することにはコストがある。
そのため、人は「今使わない代わりに、将来はもっと多く使えるようにしてほしい」と考える。
その報酬の一つが金利である。
したがって、金利は単なる金融機関の手数料ではない。
現在の消費を将来へ先送りすることに対する報酬
という意味を持っている。
7.金融機関があると、なぜ金利を下げられるのか
ここで第3章、第4章とのつながりが見えてくる。
仮に金融機関が存在しなかったとする。
資金を貸したい人は、自分で借り手を探さなければならない。
「この人はちゃんと返してくれるのか」
「この会社は倒産しないだろうか」
「どれくらいの金額を貸すべきなのか」
「契約書をどう作ればいいのか」
といった問題を、自分で調べなければならない。
これは非常に面倒である。
しかも、個人が企業の信用力を詳しく調べるには限界がある。
そこで銀行などの金融機関が登場する。
銀行は多数の預金者から資金を集め、借り手について調査し、貸し出しを行う。
この過程で、個々の資金提供者が負担しなければならなかった取引費用が節約される。
その結果、金融機関が存在することで、資金供給曲線が下方へ移動し、より低い金利でも多くの資金が市場に供給される可能性が生まれる。
ここには金融機関の存在意義が非常に端的に表れている。
銀行は「お金を右から左へ運ぶだけの会社」ではない。
金融取引にかかる情報コストや調査コストを削減することによって、資金をより効率的に循環させる存在なのである。
8.同じ満期でも、なぜ金融商品の金利は違うのか
ここで新しい疑問が生まれる。
「同じ1年間の金融商品なのに、なぜ預金金利と国債利回りと社債利回りが違うのか」
その答えの一つが、流動性である。
流動性とは、簡単に言えば、
その資産をどれだけ容易かつ確実に貨幣へ変換できるか
という性質である。
現金は極めて流動性が高い。
1000円札を持っていれば、ほとんどそのまま支払いに使える。
普通預金も高い流動性を持っている。銀行口座から振り込んだり、ATMで現金を引き出したりできるからである。
定期預金になると少し流動性が落ちる。
さらに債券や株式になると、売却しなければ現金にならない。しかも売却価格がその時点でいくらになるかは分からない。
土地になるとさらに流動性が低くなる。
土地は「明日100万円必要だから売ります」と言って、必ず明日100万円で売れるわけではない。
9.流動性を決める三つの要素
金融資産の流動性は、主に三つの観点から考えることができる。
一つ目は取引費用である。
売却するときに手数料や広告費などが多くかかる資産ほど、現金化しにくい。
二つ目は可分性である。
小さな単位に分けて売買できる資産ほど流動性が高い。
現金は1000円単位、1円単位などで利用できる。一方、一筆の土地を「土地の半分だけ売りたい」と考えても、簡単にはいかない。
三つ目は確実性である。
将来いくらの価値になるのか予想しやすい資産ほど流動性が高い。
預金は、契約条件が変わらなければ将来の金額を比較的正確に予測できる。一方、株式は将来いくらになるのか分からない。
この三つの違いによって、金融資産には流動性の差が生まれる。
10.「流動性が低いなら、その分だけ金利をよこせ」
ここから非常に面白い考え方が出てくる。
もし二つの金融資産が同じようなリスクを持っているのに、一方のほうが換金しにくいとする。
投資家は、わざわざ換金しにくい資産を持つ理由が必要になる。
そこで、
「換金しにくいなら、その分だけ高い収益をください」
という要求が生まれる。
これが流動性プレミアムという考え方である。
現金は極めて流動性が高い。その代わり、通常は利息を生まない。
普通預金は現金より若干流動性が低いので、利息がつく。
定期預金は普通預金よりさらに流動性が低いので、一般により高い金利が設定される。
債券の場合は、市場で売却する必要があり、価格変動もある。そのため、定期預金などと比べてより高い利回りが要求される場合がある。
つまり、
高い収益率には、それなりの理由がある。
「金利が高いから得」と単純に考えてはいけない。
高い金利の裏側には、流動性の低さや信用リスクなど、何らかの負担が存在している可能性があるからである。
11.ケインズの「流動性選好説」
金利を考えるもう一つの重要な理論が、J・M・ケインズの流動性選好説である。
貸付資金説が「一定期間にどれだけお金が貸し借りされるか」というフローに注目するのに対して、流動性選好説は、人々が現在どのような金融資産を保有したいと思っているのかというストックの側面に注目する。
人々は、すべての資産を株式や債券に変えてしまうわけではない。
「いつ必要になるか分からないから現金を持っておこう」
「銀行預金にしておこう」
「多少リスクがあっても債券を持とう」
「株式を買って値上がりを狙おう」
というように、資産の形を選択する。
つまり金利は、単純な「お金の貸し手と借り手」だけでなく、貨幣を持つか、債券などを持つかという資産選択の問題としても理解できるのである。
12.経済が成長すると、なぜ金利が上がることがあるのか
経済活動が活発になると、企業の売買や家計の消費も増える。
すると、支払いに使う貨幣への需要も増加する。
企業が商品を大量に仕入れ、賃金を支払い、設備投資を行えば、それだけ決済に必要な資金も増える。
こうして経済成長によって貨幣需要が増加すると、債券を売って貨幣を確保しようとする主体が増える可能性がある。
債券が売られれば、債券価格は低下する。
そして先ほど確認したように、
債券価格↓ → 債券利回り↑
となる。
したがって、経済成長や景気拡大が金利上昇につながる場合がある。
ただし、これは「景気が良くなれば必ず金利が上がる」という単純な法則ではない。
金融政策やインフレ期待、資金需要、海外金利など、さまざまな要因が同時に作用するからである。
13.短期金利と長期金利――「金利にも時間軸がある」
金融市場では、金利を一つの数字として考えてはいけない。
「金利」といっても、1日、3か月、1年、5年、10年など、期間によって異なる。
特に重要なのが、
短期金利
と
長期金利
の関係である。
短期金利は、1年以下程度の短期金融商品の金利として考えることができる。
一方、満期までの期間が1年を超える債券の利回りは長期金利として扱われる。
そして、短期金利と長期金利の関係を見ることで、市場参加者が「これから金利がどう動くと思っているのか」をある程度読み取ることができる。
14.長期金利は「将来の短期金利」の予想を反映する
たとえば、5年間お金を運用する人を考えてみよう。
選択肢が二つある。
一つは、現在1年満期の定期預金に預け、1年後にまた1年間預ける方法である。
もう一つは、最初から5年満期の国債を購入する方法である。
前者の場合、2年目、3年目、4年目、5年目の金利がどうなるか分からない。
もし「これから短期金利が上昇する」と予想されれば、投資家は「1年ごとに預金を更新したほうが得ではないか」と考える。
その結果、現在の5年国債を売る人が増えれば、国債価格が下がり、長期金利が上昇する。
逆に、「これから短期金利が低下する」と予想されれば、現在のうちに長期国債を買って高い利回りを確保したほうが有利だと考える人が増える。
その結果、国債価格が上昇し、長期金利は低下する。
この考え方が金利の期間構造に関する期待仮説である。
15.順イールドと逆イールド
短期金利より長期金利のほうが高い状態を、一般に順イールドという。
たとえば、
1年金利=2%
5年金利=3%
10年金利=4%
というように、期間が長くなるほど金利が高くなる状態である。
反対に、
1年金利=4%
5年金利=3%
10年金利=2%
のように、長期金利のほうが低くなる状態を逆イールドという。
逆イールドは、単なる「金利の並び方」ではない。
市場参加者が「将来、短期金利が低下するのではないか」と予想している場合に、長期債への需要が増えて長期金利が低下することがある。
そのため、イールドカーブは金融市場が将来の経済や金融政策についてどのような期待を形成しているのかを読み取る手がかりになる。
16.金利が変わると、なぜ株価が変わるのか
ここから金利と資産価格の関係が見えてくる。
株式を持つことで得られる利益には、配当だけでなく、株価が上昇した場合のキャピタル・ゲインがある。
企業が将来大きな利益を上げると期待されれば、その企業の株式を買いたい人が増える。
すると株価が上昇する。
しかし、株式にはリスクがある。
株価が下落する可能性もあるからである。
そこで投資家は、
「リスクを取って株式を持つべきか」
「安全性の高い預金や債券を持つべきか」
を比較する。
金利が低い場合、安全性の高い預金や債券から得られる収益が小さくなる。
すると、多少リスクを取ってでも株式を購入しようとする人が増える可能性がある。
逆に金利が上昇すれば、預金や債券でも比較的高い収益を得られるようになるため、株式から資金を移す投資家が増える可能性がある。
その結果、株式需要が減少して株価が下落する方向に働く。
つまり、
低金利 → 株式の相対的な魅力が高まりやすい
高金利 → 株式の相対的な魅力が低下しやすい
という関係が生まれる。
17.低金利は「借りやすい」だけではない
低金利が株価に影響するもう一つのルートがある。
金利が低ければ、株式を購入するための資金を借りるコストも低くなる。
「銀行から低い金利で資金を借りて株を購入しよう」
と考える人が増えれば、株式需要が増える。
これは企業にも当てはまる。
企業が低い金利で資金を借りられれば、設備投資を行いやすくなる。
設備投資が増えれば、企業の将来利益が増える可能性がある。
その期待が株価に反映される。
したがって金利は、
投資家の資産選択
と
企業の資金調達
の両方を通じて株価に影響する。
18.地価も金利によって動く
土地についても同じようなことが起こる。
土地を保有することで得られる利益には、地代などの収益がある。
さらに土地そのものの価格が上昇すれば、売却時にキャピタル・ゲインを得られる。
そのため、
「将来、地価が上がりそうだ」
と考える人が増えれば、土地を買おうとする人が増える。
また、金利が低下すると、土地を購入するための借入コストも低下する。
住宅ローンの金利が低下すれば、住宅を購入しやすくなる。
土地への投資資金も調達しやすくなる。
その結果、土地需要が増加し、地価が上昇する方向に働く。
逆に金利が上昇すれば、この流れは反対になる。
19.1980年代後半の日本――金利と資産価格の関係
この仕組みを理解するうえで、日本の1980年代後半から1990年代にかけての経験は非常に興味深い。
1980年代半ばから株価と地価が急激に上昇した。
この時期には、株式や土地などの資産総額がGDPに対して急速に膨らみ、いわゆる「経済のストック化」が進んだ。
ところが1990年代に入ると、株価と地価が大きく下落した。
ここで注意したいのは、「金利が下がれば資産価格は必ず上がる」という単純な関係ではないことである。
1990年代初頭には景気後退と金融緩和によって金利が低下したにもかかわらず、株価と地価は下落した。
なぜだろうか。
20.バブルは「金利だけ」では説明できない
この問題を理解する鍵が期待である。
資産価格は、現在の収益だけで決まるわけではない。
「将来どれくらい儲かるだろう」
「この土地は将来もっと高くなるだろう」
という期待が価格に組み込まれている。
1980年代後半には、企業収益や地代などのファンダメンタルズだけでは説明できないほど株価や地価が上昇した。こうした現象がバブルである。
ところが、将来の資産価格上昇に対する期待が崩れると、状況は一気に反転する。
「もっと上がる」と思って買っていた人が、
「もう上がらないかもしれない」
と考え始めれば、資産を買う人が減る。
すると価格が下がる。
価格が下がると、さらに「これからも下がるのではないか」という悲観的な期待が生まれる。
こうして資産価格の下落が自己強化的になる場合がある。
21.「逆資産効果」――資産価格の下落がさらに経済を弱らせる
さらに重要なのが、資産価格と金融機関の関係である。
日本のバブル期には、土地価格の上昇を背景に土地を担保とした融資が拡大した。
ところが地価が急落すると、担保としていた土地の価値も急落する。
銀行にとっては、融資の裏付けとなっていた担保価値が失われる。
その結果、不良債権が増加する。
一方、企業や家計の側から見ても、保有している株式や土地の価値が減少すれば、資産が減少する。
資産が減少すると、人々や企業は将来に備えて流動性を確保しようとする。
そのため、株式や土地などリスクの高い資産への需要がさらに減少する。
すると株価や地価がさらに下がる。
このように、資産価格の下落が資産需要を減らし、それがさらに資産価格を下げるというメカニズムが働く。
これが逆資産効果である。
ここには、金融と実体経済が相互に影響する重要な仕組みが表れている。
22.金融政策を考えるときにも「金利→資産価格」が重要になる
金利と資産価格の関係は、単なる投資家の問題ではない。
中央銀行が金融政策を変更すると、金利が変化する。
金利が変化すると、
企業の借入コスト
家計の住宅ローン負担
預金の収益
債券価格
株価
地価
などが変化する。
さらに資産価格が変化すると、家計や企業の資産状況が変わり、それが消費や投資に影響する。
つまり、
金融政策 → 金利 → 資産価格 → 家計・企業の行動 → 経済活動
という経路が形成される。
これは後に金融政策やマクロ経済を考える際の重要な土台になる。
23.金融市場を「現在と未来をつなぐ装置」として見る
ここまでの内容を一つにつなげると、金利の意味がかなり明確になる。
金利は単なる「借金の手数料」ではない。
金利は、
現在のお金と未来のお金を交換するための価格
である。
そして金融市場では、この価格を通じて、
「今消費するか」
「貯蓄するか」
「企業に投資するか」
「株式を買うか」
「債券を買うか」
「土地を買うか」
「銀行から借りるか」
といった経済主体の選択が調整される。
金利が変われば、人々の選択が変わる。
人々の選択が変われば、資金の流れが変わる。
資金の流れが変われば、株価や地価などの資産価格が変わる。
資産価格が変われば、企業や家計の行動も変わる。
この連鎖こそが、金融が実体経済に影響を与える重要な経路である。
24.第5章の核心を一枚の図にすると
金利の働きを極端に単純化すると、次のように整理できる。
貯蓄する人
↓
現在の消費を我慢する
↓
資金を供給する
↓
金利という「時間の価格」
↑
資金を借りる企業・家計
↓
将来の収益や所得を期待して現在の資金を使う
↓
投資・住宅購入・事業活動
↓
企業収益・所得・資産価格
↓
再び貯蓄・投資へ
という循環になる。
そして、この循環の途中に銀行、債券市場、株式市場などが存在する。
25.金利を見るときに忘れてはいけないこと
金利をニュースで見るとき、「金利が上がった」「金利が下がった」という数字だけを見ると、本当の意味を見失いやすい。
重要なのは、
なぜ金利が動いたのか
である。
資金需要が強くなったからなのか。
貯蓄が増えたからなのか。
金融政策が変化したからなのか。
インフレ期待が変化したからなのか。
景気が悪化して資金需要が減ったからなのか。
将来の短期金利が上がると市場が予想しているからなのか。
あるいは安全資産への需要が高まったからなのか。
同じ「金利上昇」でも、その原因によって経済への意味はまったく違ってくる。
そしてもう一つ重要なのが、名目金利と実質的な収益の違いである。
たとえば金利が5%あっても、物価が10%上昇すれば、実際にそのお金で買えるものは増えない。
逆に金利が1%しかなくても、物価が下落していれば、実質的な購買力は増えることがある。
したがって金利を見るときには、金利そのものだけでなく、物価や将来のインフレ・デフレに対する期待まで考える必要がある。
まとめ――金利は「お金の値段」であると同時に「未来の値段」でもある
金利を理解すると、金融市場のさまざまな現象が一本の線でつながってくる。
金利は、現在の消費を犠牲にして資金を提供することへの報酬であり、現在のお金と将来のお金を交換する価格でもある。
その金利は、資金の需要と供給によって決まると考えることができる一方、人々が貨幣や債券などの資産をどのような形で保有したいと考えるかという「流動性選好」からも理解できる。
さらに、金融機関が存在することで情報収集や信用調査などの取引費用が低下し、資金がより効率的に循環する。
金融資産には流動性の違いがあり、流動性の低い資産には、その不便さを補うための「流動性プレミアム」が要求される。
そして債券価格と利回りは逆方向に動き、短期金利と長期金利の関係には、将来の金利に対する市場参加者の期待が反映される。
さらに金利は株価や地価にも影響する。低金利は預金や債券に対する株式・土地の相対的な魅力を高め、借入コストを低下させることで資産価格を押し上げる方向に働くことがある。逆に、金利上昇はその反対方向に作用する。
しかし、資産価格は金利だけでは決まらない。将来の収益への期待、景気、信用、金融機関の状態なども重要である。日本のバブルとその崩壊は、そのことを強く示している。
結局のところ、金融市場で動いているのは「お金」だけではない。
現在と未来、収益とリスク、流動性と収益性、期待と現実が、金利という価格を通じて結び付けられている。
だからこそ金利は、金融経済を理解するための「中心軸」になるのである。
