銀行の仕事は、かつて「人がお金を預かり、人がお金を貸し、人が帳簿に記録する」という、かなり人手のかかる仕事でした。ところがコンピュータと通信技術が金融業務に入り込むと、この姿は大きく変わります。
銀行の店舗にある端末が本部のコンピュータとつながり、さらに銀行同士がつながり、やがて企業や家庭まで通信ネットワークでつながっていく。ATMで現金を引き出せるようになり、給与が自動的に口座へ振り込まれ、公共料金が自動的に引き落とされ、国境を越えた資金移動も電子的に処理されるようになりました。
金融業務のエレクトロニクス化とは、単に「銀行がコンピュータを使うようになった」という話ではありません。
本質的には、お金そのものよりも「お金に関する情報」を高速に処理する産業へと金融が変化したことを意味します。
この変化によって、金融機関の業務効率だけでなく、金融商品の種類、収益構造、国際金融市場、決済システム、さらには金融システム全体のリスクまで変わっていきました。資料では、この変化を「第一次オンライン」「第二次オンライン」「第三次オンライン」「エレクトロニック・バンキング」という流れで整理し、その影響として金融新商品の登場、金融機関の収益構造の変化、金融のグローバル化、システミック・リスクの問題を取り上げています。
- 金融業務は、なぜコンピュータと相性がよかったのか
- 第一次オンライン――銀行の内部がつながった
- 第二次オンライン――銀行と銀行がつながった
- 第三次オンライン――銀行の「外側」までネットワークが広がる
- 日銀ネットの登場――金融機関を超えて中央銀行ともつながる
- 金融のエレクトロニクス化は「スピード」を変えた
- 電子化が金融商品まで変えてしまった
- 金融機関の収益構造も変わった
- 電子化は「金融のグローバル化」を加速させた
- 金融市場は「24時間動く巨大なネットワーク」になった
- 便利になった金融ネットワークには、新しい危険もある
- RTGS――「まとめて決済」から「一件ずつ即時決済」へ
- デビットカード――カードが「現金の代わり」になる
- 電子マネー――「お金そのもの」がデジタルになる
- 電子マネーは「電子商取引」と結びつく
- インターネット専門銀行――銀行から「店舗」が消える
- 「銀行とは何か」という定義まで変わってくる
- 金融のエレクトロニクス化を一つの流れで見る
- 電子化には「光」と「影」がある
- 金融は「お金を運ぶ産業」から「情報を処理する産業」へ
- 「お金のデジタル化」の先にあるもの
金融業務は、なぜコンピュータと相性がよかったのか
金融業務には、コンピュータが非常によく適合します。
なぜなら、金融の中心にあるのは「物」ではなく、数字と記録と情報だからです。
たとえば銀行預金を考えてみましょう。
預金者が100万円を預けたとき、銀行が100万円の現金を特別な箱に入れて保管しているとは限りません。銀行にとって重要なのは、
「この顧客には100万円の預金残高がある」
という記録です。
そこから10万円が振り込まれれば、
「100万円 → 90万円」
と記録を変更する。
別の口座に10万円が入れば、
「50万円 → 60万円」
と変更する。
つまり、金融のかなりの部分は、巨大な帳簿を正確かつ高速に更新する仕事なのです。
この特徴が、コンピュータによる処理と非常によく合いました。
さらに通信回線が発達すると、単に一つの銀行の中でデータを処理するだけでなく、遠隔地の店舗、本店、他行、日本銀行、企業、家庭まで接続できるようになります。
ここから金融業務の革命が始まります。
第一次オンライン――銀行の内部がつながった
昭和40年代になると、金融機関のコンピュータ化が本格化します。
これが第一次オンラインです。
この段階の中心は、同じ金融機関の中にあるコンピュータ・センターと本支店を通信回線で結ぶことでした。従来は、店舗ごとに処理する部分が大きかった金融業務を、コンピュータ・ネットワークによって集中処理できるようにしていったのです。
これによって、銀行業務の性格は大きく変わります。
たとえば、ある銀行のA支店に預金している人が、別の支店でも預金の入出金を行えるようになります。
今日からすると当たり前ですが、これは大きな変化です。
銀行口座というものが、「この店舗に保管されている帳簿」から、
「銀行全体のコンピュータ・ネットワーク上で管理される情報」
へ変わったからです。
この時期には、現金自動支払機(CD)、公共料金の自動引き落とし、給与振込なども普及していきました。また、銀行の利息計算などの事務処理も大幅に効率化され、総合口座の開設も行われるようになりました。昭和48年には全国銀行データ通信システムも採用されています。
銀行のコンピュータ化は、まず銀行自身の仕事を変えたのです。
第二次オンライン――銀行と銀行がつながった
昭和50年代になると、さらに大きな変化が起こります。
第二次オンラインです。
第一次オンラインが「一つの金融機関の中をつなぐ」段階だったのに対して、第二次オンラインでは、金融機関グループ間のコンピュータ・センターなどを通信回線によって結合する方向へ進みました。
利用者にとって分かりやすい変化は、ATMです。
以前の現金自動支払機は、基本的には現金を引き出すための機械でした。
それがATMへと発展し、預け入れなどもできるようになります。
さらに、提携関係にある他の金融機関のATMを利用できるようになるなど、金融機関をまたいだサービスが広がっていきます。
これは重要な転換です。
銀行口座が単独の銀行の中だけで完結するものではなくなり、金融機関同士を結ぶネットワークの中で利用されるものになったからです。
今日、コンビニなどに設置されたATMで、自分の銀行の店舗に行かなくても現金を引き出せることを考えると、この変化の大きさが分かります。
第三次オンライン――銀行の「外側」までネットワークが広がる
昭和57年以降になると、通信回線の自由化を背景として、さらにエレクトロニクス化が進展します。
これが第三次オンラインです。
ここでは金融機関同士のネットワークだけでなく、金融機関と企業、金融機関と家庭を通信回線で結ぶことが可能になりました。
金融機関と企業を結ぶものをファーム・バンキング、金融機関と家庭を結ぶものをホーム・バンキングと呼びました。
現在から見ると、これはインターネット・バンキングやオンライン決済の先祖にあたる発想です。
つまり金融サービスを受けるために、必ず銀行の店舗へ行く必要がなくなっていく。
金融機関からすれば、
「顧客が店舗に来る」
というモデルから、
「金融機関のシステムが顧客のところまで届く」
というモデルへの転換です。
これは金融サービスの「場所」を変える革命でした。
日銀ネットの登場――金融機関を超えて中央銀行ともつながる
電子化の進展は、民間銀行だけにとどまりません。
昭和63年には、日本銀行と民間金融機関との間の取引をオンラインで処理する日本銀行金融ネットワーク・システム(日銀ネット)が構築・運営されるようになりました。資料では、これによって金融機関同士の決済だけでなく、日本銀行との間の資金決済なども電子的に処理されるようになったことが説明されています。
ここまで来ると、金融ネットワークは単なる「銀行の便利なコンピュータシステム」ではありません。
日本経済そのものを支えるインフラになってきます。
企業が取引先にお金を払う。
銀行がその決済を処理する。
銀行同士が資金を決済する。
その銀行が日本銀行との間で資金を決済する。
こうした巨大な資金循環が電子ネットワーク上で処理されるようになります。
現代の金融を考えるとき、金融機関のコンピュータ・システムは、電気や通信と同じように社会の基盤インフラとして考える必要があります。
金融のエレクトロニクス化は「スピード」を変えた
電子化によって何が変わったのか。
最も分かりやすいのは、スピードです。
紙の帳簿を人間が処理する場合、情報を確認し、転記し、集計し、別の店舗や機関に送る必要があります。
コンピュータなら大量のデータを短時間で処理できます。
通信ネットワークと組み合わせれば、遠隔地にある情報も短時間で送受信できます。
その結果、
「銀行の店舗で処理する」
から、
「ネットワークを通じてリアルタイムに近い形で処理する」
へと金融の時間感覚が変わっていきました。
そして、ここから金融の「距離」も変わります。
東京と大阪。
日本とロンドン。
ニューヨークと東京。
かつては地理的距離が金融取引の大きな制約でした。
しかし情報が瞬時に伝達されるようになると、その意味が小さくなっていきます。
この変化が、後に金融市場のグローバル化を加速させます。
電子化が金融商品まで変えてしまった
エレクトロニクス化の影響は、単なる事務効率化ではありませんでした。
意外なことに、金融商品の開発そのものを促進したのです。
なぜでしょうか。
金融商品が複雑になるほど、
「金利をどう計算するのか」
「毎日の残高をどう管理するのか」
「多数の顧客についてどう処理するのか」
という事務負担が増えます。
コンピュータがなければ、複雑な金融商品を大量の顧客に提供することは難しい。
しかしコンピュータなら大量の計算を処理できます。
その結果、新しい金融商品の提供が容易になりました。
資料では、証券会社の業務拡大の中心となった中期国債ファンドやMMFなどについて、コンピュータによる利息計算などの事務処理効率化が重要だったことが指摘されています。また銀行側も、ビッグ、ワイド、貯蓄預金、変動金利定期預金などの新金融商品を次々と登場させ、銀行と証券会社の競争が激しくなりました。
ここには非常に面白い関係があります。
コンピュータが金融商品を便利にしたのではなく、金融商品が複雑化することを可能にしたのもコンピュータだった
のです。
金融機関の収益構造も変わった
エレクトロニクス化は、銀行の「稼ぎ方」にも影響します。
電子化によって、預金者は自分の預金状況を把握しやすくなり、振込や引き落としなどのサービスも簡単に利用できるようになります。
一方で、金融機関にとっては別の問題が生じます。
顧客が金融商品を簡単に比較できるようになると、預金についても、
「もっと有利な商品はないか」
と考えるようになります。
低金利の流動性預金だけでなく、貯蓄性のある預金や預金以外の金融資産へ資金が移動しやすくなります。
その結果、金融機関は預金を集めるために金利面で競争しなければならなくなります。
ところが、貸出金利は競争上簡単には引き上げられません。
すると、
預金の調達コストは上昇する一方、貸出による収益は増やしにくい
という状況が生まれ、銀行の利ざやが縮小する可能性があります。
そこで金融機関は、振込や引き落としなど電子化によって増加するサービスの手数料収入にも力を入れるようになります。
これは現在の銀行ビジネスを理解するうえでも重要な考え方です。
銀行の収益を、
「預金金利と貸出金利の差」
だけで考える時代から、
「金融サービスそのものから得られる手数料」
も重要な収益源として考える時代へ移っていくのです。
電子化は「金融のグローバル化」を加速させた
金融市場の国際化にとって、通信技術の発展は極めて重要でした。
金融取引では、情報が速く伝わることが非常に重要です。
「どの銀行がいくらの資金を必要としているか」
「どの市場で金利がいくらなのか」
「為替レートはいくらなのか」
「どの証券をいくらで売買できるのか」
といった情報が高速に伝われば、国境を越えた取引が可能になります。
資料では、SWIFTのような国際的な金融通信ネットワークにも触れながら、ロンドン、ニューヨーク、東京などの金融市場間の資金移動において、距離や時差が以前ほど大きな障害ではなくなったことを指摘しています。金融・証券取引が世界各地で行われ、世界の金融市場が一体化していく現象を金融のグローバリゼーションとしています。
つまり金融のグローバル化は、単純に「海外進出する銀行が増えた」という話ではありません。
その根底には、
世界中の金融情報を高速に伝達し、資金を国境を越えて移動させる技術
があります。
金融市場は「24時間動く巨大なネットワーク」になった
世界の金融市場を考えると、この意味がよく分かります。
東京市場が動いている時間帯が終わる。
その後、欧州の市場が動く。
さらにニューヨーク市場が動く。
世界各地の市場が順番に活動することで、金融取引は事実上、世界中のどこかで継続しています。
金融情報が高速に伝わるようになると、
東京の金利変化がロンドンに伝わり、ロンドンの取引がニューヨークに影響し、ニューヨークの動きが再び東京に戻ってくる
という相互作用が強くなります。
金融市場が便利になった一方で、ある地域の金融ショックが別の地域へ伝わるスピードも速くなりました。
ここで、エレクトロニクス化の「光」と「影」が出てきます。
便利になった金融ネットワークには、新しい危険もある
金融機関同士が電子的に結ばれることには、大きなメリットがあります。
資金決済が速くなる。
遠隔地への送金が容易になる。
企業が効率的に資金を調達できる。
金融機関同士が迅速に取引できる。
しかし、ネットワークが緊密になればなるほど、一つの金融機関の問題が他の金融機関へ伝わりやすくなるという問題があります。
これは前節で扱ったシステミック・リスクと深く関係します。
たとえば、
A銀行がB銀行に支払う。
B銀行がC銀行に支払う。
C銀行がD銀行に支払う。
という決済関係があるとします。
A銀行が決済不能になると、B銀行が予定していた資金を受け取れません。
するとB銀行もC銀行への支払いができなくなるかもしれません。
そしてC銀行もD銀行への支払いができなくなる。
このように、一つの問題がネットワークを通じて連鎖する可能性があります。
電子化によって決済は速くなりました。
しかし同時に、
金融システムの「神経回路」も高速化した
と考えることができます。
RTGS――「まとめて決済」から「一件ずつ即時決済」へ
こうしたリスクへの対応として重要なのがRTGS(Real Time Gross Settlement:即時グロス決済)です。
従来型の決済では、一日の取引をまとめて相殺し、その差額を決済するような仕組みがありました。
たとえば、
A銀行 → B銀行 100億円
B銀行 → A銀行 90億円
という取引があった場合、最終的には10億円だけ決済すればよい、という考え方です。
これは資金効率の面では便利です。
しかし、途中の銀行が決済できなくなると、ネットワーク全体に影響する可能性があります。
そこでRTGSでは、一定の決済を一件ごとに、即時に、最終的に確定させる方式を採ります。
資料では、平成13年から日本銀行当座預金決済がRTGS化されたことについて、システミック・リスクの顕在化を防止する狙いがあったと説明しています。
これは一見すると単なるコンピュータ技術の問題に見えます。
しかし実際には、
「金融システム全体をどうすれば安全に動かせるか」
という金融政策・金融制度の問題です。
デビットカード――カードが「現金の代わり」になる
エレクトロニック・バンキングの発展は、銀行の内部だけではなく、私たちの買い物にも及びました。
その代表がデビットカードです。
デビットカードは、買い物の代金を預金口座から即時に引き落とす仕組みです。
クレジットカードとの違いを単純化すると、
クレジットカード=後から支払う
デビットカード=口座からその場で支払う
という違いがあります。
資料では、金融機関が発行するキャッシュカードを利用して買い物代金を預金口座から即時に引き落とすサービスとしてデビットカードを説明し、当時の日本では一部金融機関がサービスを開始していた段階でした。
ここで重要なのは、買い物の場面で「現金そのもの」が移動しているわけではないことです。
実際に重要なのは、
「この口座から、この店側へ、この金額を移転する」
という情報です。
つまり、店舗での買い物まで金融ネットワークの一部になっていきます。
電子マネー――「お金そのもの」がデジタルになる
さらに先に登場したのが電子マネーです。
資料では電子マネーを、現金、小切手、クレジットカードなど従来の決済手段を電子的な決済手段に置き換えようとするものとして説明しています。
当時想定されていた方式として、
ICカード型
と
ネットワーク型
が紹介されています。
ICカード型では、預金口座から電子マネーをICカードに移しておき、それを端末で利用します。
ネットワーク型では、電子的な「マネー」をコンピュータ上に保管し、ネットワークを通じて移転します。
ここには金融の歴史を考えるうえで、とても面白い問題があります。
現金の場合、
紙幣や硬貨という「物」がお金の姿をしている
のに対して、電子マネーになると、
「誰がいくらの支払能力を持っているか」という情報そのものがお金として機能する
ようになるからです。
金融の電子化は、最終的には「お金をデジタル化する」という方向へ進んでいきます。
電子マネーは「電子商取引」と結びつく
電子マネーの重要性は、金融業界の中だけでは完結しません。
インターネット上で商品を購入するとき、店員に現金を渡すことはできません。
そこで、
商品情報
注文情報
支払情報
をネットワーク上で処理する必要があります。
つまり電子マネーや電子決済は、電子商取引(EC)を成立させるための金融インフラでもあります。
資料でも、電子的な資金決済が電子商取引のシステムの一環として位置づけられるようになったことが指摘されています。
これは非常に重要なポイントです。
インターネットが「情報を売買する空間」になるためには、同時に、
「お金をどうやってネット上で動かすのか」
という問題を解決しなければなりません。
したがって、インターネット産業の発展と金融の電子化は、実は深く結びついています。
インターネット専門銀行――銀行から「店舗」が消える
そして最後に登場するのが、インターネット専門銀行です。
資料では、平成12年以降、情報通信技術の進展を背景にインターネット専門銀行が登場したことが説明されています。
その特徴は、
自らの店舗を持たず、口座開設、振込み、ローンなどの金融サービスをインターネット上で提供する
ことです。ATMについても、提携先の一般金融機関のものを活用することで、店舗網を持たずにサービスを提供する仕組みが説明されています。
これは銀行というビジネスの「店舗」という固定観念を崩すものでした。
従来の銀行は、
建物 → 窓口 → 職員 → 顧客
という構造を持っていました。
ところがインターネット銀行では、
顧客 → インターネット → 銀行システム
となります。
銀行員と直接会わなくても、口座を開設し、振り込みを行い、残高を確認し、金融サービスを利用できる。
つまり金融機関の「店舗」が、物理的な建物から情報システムそのものへ移っていくのです。
「銀行とは何か」という定義まで変わってくる
ここまで考えると、エレクトロニクス化の本当の意味が見えてきます。
第一次オンラインでは、銀行内部がコンピュータ化されました。
第二次オンラインでは、金融機関同士がネットワーク化されました。
第三次オンラインでは、企業や家庭まで金融機関とつながりました。
その先には電子決済、電子マネー、インターネット専門銀行が登場します。
つまり、
銀行の中がデジタル化された
だけではありません。
最終的には、
銀行という存在そのものが「店舗」から「ネットワーク上の金融サービス」へ変化していく
のです。
金融のエレクトロニクス化を一つの流れで見る
全体を整理すると、次のようになります。
| 段階 | 主な変化 | 意味 |
|---|---|---|
| 第一次オンライン | 銀行内部のコンピュータ化 | 店舗事務の効率化 |
| 第二次オンライン | 金融機関間のネットワーク化 | ATM・金融機関間取引の拡大 |
| 第三次オンライン | 企業・家庭との接続 | ファーム・バンキング、ホーム・バンキング |
| 日銀ネット | 中央銀行と金融機関の接続 | 金融機関間の決済インフラ高度化 |
| エレクトロニック・バンキング | 電子決済の普及 | 金融サービスの非店舗化 |
| デビットカード | 預金口座から直接決済 | 現金を使わない決済 |
| 電子マネー | 電子的な価値の移転 | 「お金」のデジタル化 |
| インターネット専門銀行 | ネット上で金融サービス提供 | 銀行店舗の意味の変化 |
この流れを一言で表現するなら、
「金融のコンピュータ化」から「金融そのもののネットワーク化」へ
ということになります。
電子化には「光」と「影」がある
金融業務の電子化には、明らかに大きなメリットがあります。
振込が速くなる。
ATMでいつでも現金を引き出せる。
遠隔地から金融サービスを利用できる。
企業の資金決済が効率化する。
海外送金が容易になる。
電子商取引が可能になる。
金融機関の事務コストも削減できる。
しかし、ネットワークが広く、速く、密接になるほど、新しいリスクも生まれます。
一つの金融機関の障害が決済ネットワークに影響する。
一つの国の金融危機が他国へ急速に波及する。
システム障害によって大量の取引が停止する。
サイバー攻撃などによって金融サービスが利用できなくなる。
資料が直接扱っているのは主としてシステミック・リスクですが、現在の金融を考えるなら、ここからさらにシステム障害やサイバーセキュリティなど「金融インフラそのものの安全性」という問題へ発展していきます。これは資料の時代背景を超えた補足的な見方ですが、金融が情報システムに依存するほど、「金融機関の健全性」と「情報システムの健全性」が切り離せなくなるという点で重要です。
金融は「お金を運ぶ産業」から「情報を処理する産業」へ
金融業務のエレクトロニクス化を理解するうえで、最も重要なのはここです。
昔の金融をイメージすると、
現金を運ぶ
ことが金融の中心のように思えます。
しかし現代金融では、実際に物理的な現金が移動する場面は金融取引全体のごく一部です。
100万円を銀行から別の銀行へ振り込むとき、100万円の札束が東京から大阪まで運ばれるわけではありません。
重要なのは、
「Aの口座から100万円減らす」
「Bの口座に100万円増やす」
という情報と権利関係の変更です。
だから金融業務はコンピュータと非常に相性がよかった。
そして通信ネットワークが発達すると、その情報を世界中へ高速に送ることができるようになった。
その結果、
金融=資金の移動
から、
金融=資金に関する情報・権利・債務をネットワーク上で処理する仕組み
へと、金融の実態そのものが大きく変わっていったのです。
「お金のデジタル化」の先にあるもの
この視点から見ると、金融業務のエレクトロニクス化は単なる銀行史の一項目ではありません。
第一次オンラインによって銀行内部がデジタル化され、第二次オンラインによって金融機関同士がつながり、第三次オンラインによって企業や家庭が金融機関につながりました。
さらに電子決済、デビットカード、電子マネー、インターネット専門銀行が登場することで、金融サービスそのものがネットワーク上に移動していきました。
その結果、金融には二つの相反する性質が生まれます。
一方では、距離と時間を超えて資金を高速に移動できる、便利で効率的な金融システムです。
他方では、金融機関や市場が密接につながったため、一つの問題が瞬時に他へ波及する可能性を持つ金融システムです。
速くつながることは、便利になることでもあり、危機が速く伝わることでもある。
この「光と影」の関係こそ、金融の電子化を理解するうえで極めて重要です。
そして今日の金融を考えるとき、銀行の建物やATMだけを見るのではなく、その背後で動いている巨大な決済ネットワーク、データ処理システム、金融市場の通信網まで視野に入れる必要があります。
金融とは、もはや単に「お金を扱う仕事」ではありません。
社会の中を流れるお金を、情報として記録し、認証し、移転し、決済し、そのネットワークを安全に維持する産業なのです。
