金融市場というと、株式市場や国債市場のように、企業や政府が大きな資金を調達する市場を思い浮かべやすい。しかし、金融システムを毎日動かしているのは、もっと短い期間の資金取引である。銀行が今日必要な資金を調達し、余った銀行がそれを運用し、証券会社や企業が一時的な資金不足を埋め、日本銀行が金融政策を通じて市場全体の資金量を調整する。その舞台となるのが短期金融市場である。

短期金融市場の特徴は、資金の貸借期間が非常に短いことである。翌日まで、数日間、数週間、数か月といった単位で資金が動く。しかも、そこでは単に「お金を貸す」「お金を借りる」という取引だけが行われているわけではない。金融機関同士の決済、中央銀行の金融政策、国債市場、企業の短期資金調達、証券市場の流動性などが相互につながっている。

つまり短期金融市場は、金融システムにおける「血液循環」ような役割を果たしている。長期の資金を動かす金融市場が経済の骨格をつくるとすれば、短期金融市場は、その骨格の内部を毎日資金が流れるようにしているのである。

短期金融市場とは何か

短期金融市場は、原則として比較的短い期間の資金を取引する市場である。参加者や取引方法によっていくつかの市場に分かれているが、大きく見ると、インターバンク市場とオープン市場に分けることができる。

インターバンク市場は、文字どおり金融機関同士が資金を融通する市場である。代表的なのがコール市場や手形売買市場である。

これに対してオープン市場では、金融機関だけでなく、事業会社や投資信託なども資金の出し手・取り手として参加する。債券現先市場、譲渡性預金市場、政府短期証券市場、コマーシャル・ペーパー市場などがこれに該当する。

この二つは別々に存在しているわけではない。金融機関は複数の市場を比較しながら、どこで資金を調達するか、どこで資金を運用するかを決める。そのため、ある市場の金利が大きく動けば、他の市場の金利にも影響が及ぶ。

たとえば銀行に資金が不足していれば、コール市場で資金を調達しようとする。一方、資金に余裕があれば、コール市場だけでなく、国債の現先取引やCD、CPなどを比較して、より有利な運用先を探す。このような裁定取引が働くため、それぞれの短期市場金利は相互に強く結びついている。

そして、この市場全体を特徴づける存在が日本銀行である。中央銀行は単なる市場参加者ではなく、金融政策を通じて市場の資金需給に働きかける立場にある。その意味で短期金融市場は、金融政策が実際の市場金利へ伝わる最前線でもある。

コール市場――銀行同士が「今日のお金」を融通する場所

短期金融市場を理解するうえで中心となるのがコール市場である。

銀行は毎日、預金の受け払い、企業への融資、他行への送金、証券取引など、大量の資金決済を行っている。その結果、ある銀行では資金が余り、別の銀行では不足するということが起こる。

たとえばA銀行にその日の資金が100億円余っている一方、B銀行では100億円不足しているとする。A銀行にとっては、そのまま眠らせておくよりもB銀行に貸した方が運用収益を得られる。B銀行にとっては、中央銀行から直接借りるよりも、市場で必要な資金を調達できる場合がある。

こうした金融機関同士の短期的な資金の貸し借りを行うのがコール市場である。

「コール」という名前も興味深い。資金を借りる側から見ると「コールローン」、資金を貸す側から見ると「コールマネー」と呼ばれる。つまり、金融機関が必要なときに呼び寄せることのできる短期資金という性格を持っている。

取引期間には半日物、翌日物、期日物などがあり、とくに無担保コールではオーバーナイト物、つまり翌日までの取引が重要な位置を占めていた。

これは一見すると非常に小さな金融取引に見える。しかし実際には、銀行システム全体の資金繰りを左右する重要な市場である。

銀行は、預金を受け入れたからといって、その預金と同じ金額を金庫に保管しているわけではない。企業への融資や証券投資などを行いながら、日々の決済に必要な流動性を確保している。そのため、金融機関相互の資金調整がなければ、金融システムは円滑に動かない。

コールレートは「金融市場の体温計」

コール市場で成立する金利がコールレートである。

コールレート、とりわけ翌日物のコールレートは、短期金融市場の代表的な金利である。金融機関の資金が不足していれば資金を求める動きが強くなり、金利には上昇圧力がかかる。逆に資金が余っていれば、資金を貸したい金融機関が増えるため、金利は低下しやすい。

つまりコールレートは、金融システム全体に「資金が余っているのか、それとも不足しているのか」を映し出す指標になる。

この意味では、コールレートは金融市場の体温計と考えることができる。

しかも、その動きは日本銀行の金融政策と密接に結びついている。日本銀行が市場に資金を供給すれば、金融機関の資金繰りは緩和され、短期金利には低下圧力がかかる。反対に金融引き締めによって市場の資金が減れば、短期金利には上昇圧力がかかる。

したがって、短期金利を見ることは、単に「銀行間の金利を見る」ことではない。中央銀行の金融政策が金融市場にどのように伝わっているかを見ることでもある。

かつて日本では、公定歩合が金融市場の金利形成に大きな影響を与えていた。しかし金融自由化が進み、日本銀行による資金調節の方法が変化すると、次第に市場金利そのものが重要な役割を持つようになった。

手形売買市場――「手形」を使って資金を融通する

短期金融市場には、コール市場のほかに手形売買市場がある。

名前だけを見ると、企業が発行した商業手形を銀行同士が売買する市場のように思える。しかし実際には少し違う。

銀行が割り引いた手形を裏付けとして、銀行が手形を振り出し、それを他の金融機関が売買する仕組みが中心となっている。そのため、実質的には金融機関同士が手形を担保とした形で短期資金を融通する市場として機能していた。

手形売買市場はコール市場よりも比較的長い期間の資金取引に利用される。手形の期間には1週間程度から1年程度まで存在し、買い手は購入後、一定期間保有した手形を期日前に売却することもできた。

そのため、金融機関にとっては「数日間だけ資金が必要」という場合だけでなく、「ある程度の期間、資金を運用したい」という場合にも利用できる。

コール市場と手形売買市場は競合関係にあると同時に補完関係にもある。資金の期間が異なれば、金融機関はそれぞれに適した市場を選ぶからである。

債券現先市場――国債を使って短期資金を動かす

短期金融市場をさらに面白くしているのが現先市場である。

現先取引とは、簡単にいえば「債券を売買する形をとりながら、実際には短期間の資金を融通する取引」である。

たとえばA社が一時的に100億円の資金を必要としているとする。A社が保有している国債をB社に売り、同時に「3か月後に買い戻す」という約束をする。この場合、A社は国債を一時的に渡す代わりに現金を受け取る。3か月後には現金を返して国債を買い戻す。

形式上は「国債の売買」だが、経済的な実態は「国債を担保にした短期的な資金調達」に近い。

これが現先取引の面白いところである。

債券を持っている企業や金融機関は、それを単に保有しておくだけではなく、短期的な資金調達のために活用できる。逆に資金余剰主体は、債券を介して安全性を確保しながら短期資金を運用できる。

現先レートは、こうした取引から形成される短期金利である。

2000年末の現先市場残高は約22兆4,405億円とされており、取引期間は1年未満だったが、実際には3か月未満の取引が中心であった。また、対象債券には一定の制限があるものの、実際には国債の取引が大部分を占めていた。

ここには、国債が単なる「政府への貸付証書」ではなく、金融市場の流動性を生み出す重要な金融資産になっていることが表れている。

レポ取引――債券そのものを「貸し借り」する

現先取引からさらに発展した仕組みがレポ取引である。

レポ取引は、国債などの債券を貸し借りし、その際に現金を担保として差し入れる取引である。つまり、債券を必要とする側と現金を必要とする側を結びつける。

たとえば証券会社が一時的に国債を必要としているとする。その証券会社は国債を借りる代わりに現金を差し入れる。取引期間が終了すると国債を返し、現金の返還を受ける。

ここで重要なのは、金融市場では「お金」だけでなく「金融資産そのもの」も流動性を持つということである。

国債は長期の政府債務でありながら、それを使って短期の資金調達ができる。これによって、長期金融市場と短期金融市場が結びつく。

日本銀行も国債レポ取引を金融調節の手段として活用するようになり、1990年代以降、レポ市場は急速に拡大した。2000年末の現金担保付き債券貸借残高は約52兆4,851億円とされている。

これは金融市場の構造を考えるうえで重要な変化である。国債が「投資対象」であるだけでなく、「資金を調達するための担保」「金融政策の道具」「市場流動性を支える資産」へと多面的な役割を持つようになったからである。

譲渡性預金(CD)――預金なのに市場で売買できる

短期金融市場には譲渡性預金(CD)市場も存在する。

通常の預金は、預金者と銀行との契約である。その預金そのものを第三者に自由に売却することはできない。

ところが譲渡性預金は、その名前のとおり「譲渡できる預金」である。市場で売買できるため、預金でありながら市場性を持った金融商品になる。

CD市場では金融機関が資金調達者となり、大口の預金者などが資金の運用者となる。金利も自由に決定されるため、銀行にとっては単なる預金集めではなく、市場から資金を調達するための手段となる。

CDの金利は、コール市場や手形売買市場、現先市場などの金利と密接に関係している。

なぜなら、銀行からすれば、

「CDを発行して資金を調達するか」

「コール市場から借りるか」

「手形市場で調達するか」

「現先市場を利用するか」

という選択肢を比較する必要があるからである。

資金の出し手である投資家側も同じである。CDに資金を置くか、大口定期預金にするか、現先取引を利用するか、外貨預金などを利用するかを比較する。

つまり、金融自由化が進むと、金融商品の間に「資金をめぐる競争」が生まれる。

2000年末のCD市場残高は約38兆5,040億円とされ、短期金融市場の中でも大きな市場となっていた。

政府短期証券と短期国債――政府も「短期の借金」をする

政府にも日々の資金繰りがある。

税金が入ってくる時期と、政府が支出する時期は完全には一致しない。そのため政府も短期的な資金調整を必要とする。

そこで利用されるのが政府短期証券(FB)などの短期証券である。

さらに国債の大量償還を円滑にするため、短期国債(TB)も発行されるようになった。

短期国債市場では、銀行、信託銀行などの金融機関が主要な買い手となっており、国債市場が長期の資金調達だけではなく、短期金融市場にも深く組み込まれていることが分かる。

2000年末の政府短期証券の発行残高は約33兆3,584億円、短期国債の残高は約40兆1,971億円とされている。

政府短期証券の市場化も、金融市場の自由化と関係している。かつては日本銀行による引受けに近い状態にあったため、市場で自由に金利が形成される仕組みが十分に発達していなかった。しかし公募入札方式などが導入されることで、市場金利によって価格が形成される方向へ変化していった。

コマーシャル・ペーパー――企業も銀行を通さず短期資金を調達する

短期金融市場の重要な変化として見逃せないのがコマーシャル・ペーパー(CP)である。

CPは、信用力の高い企業が短期資金を調達するために発行する無担保の約束手形である。

銀行から借りるのではなく、市場の投資家から直接資金を調達する。したがって、CP市場は企業金融における直接金融の一つと考えられる。

日本では1987年からCPの発行が認められた。当時の制度では、発行できるのは一定の信用力を持つ企業であり、期間は1年未満、銀行や証券会社が発行を取り扱い、販売対象は主として機関投資家などとされた。

ここにも金融自由化の大きな意味がある。

企業が資金を必要としたとき、以前なら「銀行から借りる」という選択肢が中心だった。しかし金融市場が発達すると、

銀行から借りる

という方法だけでなく、

市場で短期証券を発行して投資家から直接調達する

という方法が可能になる。

企業にとっては資金調達手段の多様化であり、金融機関にとっては競争相手の登場でもある。

外貨の短期金融市場――日本の金融市場は円だけではない

短期金融市場は国内の円市場だけで完結していない。

東京ドル・コール市場、東京オフショア市場、ユーロ円市場など、外貨や国際的な資金を扱う市場も形成されてきた。

東京ドル・コール市場は、外貨による銀行間の短期資金貸借市場である。特にドルを中心として、外国為替業務を行う銀行が短期資金を融通する。

さらに東京オフショア市場が設けられると、外貨取引の中心は次第にそちらへ移っていった。

また円転規制の撤廃によって、銀行は外貨を円に転換して国内市場で運用することも容易になった。すると、ドルの短期金利と円の短期金利、さらに為替相場が相互に関係するようになる。

たとえばドルを借りて円に換える方が有利なのか、それとも円を直接借りる方が有利なのかを金融機関が比較する。このような裁定取引によって、国内金融市場と国際金融市場の金利・為替の関係が強まっていく。

金融市場の国際化とは、単に外国人投資家が日本株を買うようになることではない。短期資金の調達・運用そのものが国境を越えて比較されるようになることでもある。

短期金利はなぜ動くのか――金融市場と景気の関係

短期金融市場を理解すると、金利が単純な数字ではないことが分かってくる。

金利は「お金の値段」である。資金を必要とする企業が増えれば、資金への需要が増えるため、他の条件が一定なら金利には上昇圧力がかかる。

景気が悪化すると、企業の利益が減少し、設備投資や運転資金への需要も弱くなる。一方で銀行などの金融機関には資金が余りやすくなる。その結果、貸出金利や公社債利回りが低下する方向に働く。

景気が回復すると企業の資金需要が増え、設備投資や事業拡大のための資金調達が活発になる。銀行の貸出も増加し、金融機関が保有する債券を売って貸出に回す動きも生じる。その結果、金利には上昇圧力がかかる。

したがって、

景気後退 → 資金需要減少 → 金利低下

景気回復・拡大 → 資金需要増加 → 金利上昇

という関係が基本的には成立する。

ただし、これは機械的な法則ではない。インフレ予想、金融政策、海外金利、為替、金融機関の資金余剰など、さまざまな要因が同時に作用するからである。

短期金利と長期金利はなぜ違うのか

ここで非常に興味深い問題が出てくる。

同じ「金利」でも、翌日物のコールレートと10年国債の利回りは同じではない。

通常の状態では、長期金利は短期金利より高い傾向がある。長期間資金を固定することには、金利変動リスクや流動性リスクなどが伴うからである。

しかし、いつでも長期金利が高いとは限らない。

市場が「将来、短期金利が下がる」と予想すれば、長期金利が短期金利を下回ることがある。これが逆イールドである。

反対に、将来短期金利が上昇すると予想される局面では、長期金利の方が高くなりやすい。

こうした長短金利の関係を説明する考え方の一つが期待仮説である。将来の短期金利がどうなると市場参加者が予想しているかが、現在の長期金利に反映されるという考え方である。

たとえば、現在の短期金利が1%でも、市場参加者が今後数年間で金利が上昇すると考えていれば、10年国債にはその将来予想が織り込まれ、長期金利が高くなる可能性がある。

逆に、現在の短期金利が高くても、「景気が悪化して、将来は金利が下がる」と予想されれば、長期金利が低下することがある。

このため、長短金利差は単なる金利差ではない。それは市場参加者が考えている将来の経済や金融政策への期待を映し出す場合がある。

短期金融市場は「金融政策の伝導路」である

短期金融市場の最大の面白さは、ここで金融政策と実体経済がつながっていることである。

日本銀行が市場の資金量や短期金利に働きかけると、その影響はコールレートなどの短期市場金利に現れる。そして短期金利の変化は、銀行の資金調達コスト、貸出金利、債券利回り、企業の資金調達コストなどへ波及する。

さらに企業の設備投資や住宅投資、家計の消費行動などにも影響が及ぶ。

つまり、

日本銀行

↓

短期金融市場

↓

短期金利

↓

銀行・債券・企業金融

↓

企業投資・家計・景気

という流れが形成される。

この意味で短期金融市場は、金融政策が経済全体へ伝わる「配管」のような役割を果たしている。

「一晩のお金」が巨大な金融システムを支えている

短期金融市場を学ぶと、金融というものに対する見方が少し変わる。

株式市場では企業の将来価値が売買され、国債市場では政府の長期的な資金調達が行われる。銀行融資では企業や家計に数年単位の資金が供給される。

それに対して短期金融市場では、翌日、数日、数週間、数か月という極めて短い時間軸で資金が動いている。

しかし、この「短さ」こそが金融システムには重要である。

銀行が今日の決済に必要な資金を確保できなければ、企業への支払いも、給与の振り込みも、証券取引の決済も円滑に行えない。ある金融機関の資金不足が他の金融機関へ波及すれば、金融システム全体の流動性問題につながる可能性もある。

だからこそ、コール市場、手形売買市場、現先市場、CD市場、CP市場、短期国債市場などが相互につながり、さらに日本銀行の金融調節と接続されている。

金融とは「大きなお金を長期間動かす世界」だけではない。むしろ、明日必要になるお金を今日どう確保するかという極めて短い時間の調整が、巨大な金融システムの安定を支えている。

そして金融自由化が進むにつれて、この短期市場では銀行だけでなく、証券会社、投資信託、事業会社、政府、海外金融機関など、多様な主体が資金を出し入れするようになった。その結果、短期金融市場は単なる「銀行間の資金繰り市場」から、金融システム全体の資金価格を形成する重要な市場へと発展していったのである。

短期金融市場を一枚の図にすると

市場主な資金の動き代表的な金利・価格主な役割
コール市場金融機関 ↔ 金融機関コールレート日々の資金過不足調整
手形売買市場金融機関 ↔ 金融機関手形売買レート比較的短期間の資金調整
債券現先市場金融機関・企業など現先レート債券を利用した短期資金調達
レポ市場債券 ↔ 現金レポレート債券貸借と資金調達
CD市場金融機関 → 投資家CDレート市場型の預金・資金調達
FB・TB市場政府 → 市場短期国債利回り政府の短期資金調達
CP市場企業 → 投資家CP金利企業の直接的な短期資金調達
外貨短期市場銀行 ↔ 銀行など外貨金利国際的な短期資金調整

この構造を見ると、短期金融市場は決して一つの市場ではないことが分かる。異なる市場が同じ「資金」という商品をめぐって競争し、相互に価格を調整している巨大なネットワークなのである。

そして、このネットワークの中心にあるのが短期金利である。短期金利は「今日のお金はいくらか」を示す価格であり、その価格の変化が、やがて長期金利、銀行貸出、企業投資、家計行動へと伝わっていく。金融市場を見るとき、株価や長期国債利回りだけでなく、その背後で絶えず動いている「明日のお金の価格」を見ることが重要になる。